甲子園 ⑤

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冬のトレーニング中心のメニューは例年通り厳しいものだったが、春の甲子園を控えていた私達のモチベーションは高かった


春休みを迎えいよいよ始まる甲子園


部員の気持ちは高まっていた

そして私自身、もう一度あのグラウンドに立てるという興奮で連日の練習にもとても身が入っていた


3月中旬、まだ少し肌寒い中、春の甲子園は始まった


初戦の相手は岡山県代表の甲子園常連校

少し小雨の降る中行われた初戦


私は一塁手として試合に出ていたため、一塁側の相手アルプスからのブラスバンド応援がすごい迫力だった

毎年のように甲子園に出ているだけあって応援団も慣れた感じで、私達を威圧してきているように思えた


浮き足立っていた我が校は、終盤まで自分達らしい野球ができずに敗退した


あっと言う間に終わった感じだった


甲子園球場から出る時、何人もの高校野球ファンから

夏も帰ってこいよー、もう一度帰ってこいよー

という言葉をかけてもらった


負けた悔しさで何も考えられなくなっていた私だったが、はっきりとその言葉は届いた


その通りだ!!

まだ夏がある、このままでは終われない

このまま終わったら必ず後悔する


不甲斐ない試合展開に監督もお怒りモードだったが、夏にもう一度帰ってくるという意識は、おそらく選手全員が一致していた


7月半ばには最後の夏の県予選が始まるため、私達に残された高校野球ができる期間は実質は後3カ月


新チーム結成から約半年

勝ち負けを繰り返し、いよいよ残すは高校野球最後の大会

夏の甲子園の県予選だけとなった


大会まで1カ月半と迫った6

毎年恒例の個人ノック期間が始まる


個人ノックとは、2時間ほどほとんど休みなしでノックを受け続ける練習だ

ポジションごとに1人ずつノッカーがつき、次から次へとノックを受ける

技術、体力、そして心までが鍛えられるとても厳しい練習である


それが2週間つづき、それを終えると1カ月間の調整期間に入る


夏の予選前は毎年のようにピリピリしている3年生だが、私達の年は違った

妙に落ち着いた雰囲気で気負いや焦りが全くと言っていいほどなかった


ベンチ入りメンバー20人が発表され、いよいよ大会が開幕する


私は背番号3をもらい、ファーストを守った


やはり最後の夏という事で、対戦相手や球場の雰囲気がいつもとは違った


準決勝

あと2つ勝てば甲子園という状況で苦戦を強いられる

序盤に先制点を奪われ、0-1のまま終盤へ


なんとか追いつき1-1のまま最終回


その日猛打賞だったキャプテンが4本目の安打で出塁

1アウトで3塁まで進め、犠牲フライでサヨナラ勝ちをおさめた


本当にホッとした

予想外の展開に焦りはしたが、なんとか決勝までこぎつけた


そして翌日の決勝戦

あと一つで甲子園

あと一つであの舞台にいける

幼少時代に体が覚えた興奮、高校1年時に目に焼き付けた光景がその時もよぎった



指導者、家族、ベンチ入りメンバー以外の部員、学校関係者、地域の方々、私やチームの応援をしてくれ続けた方達のために何が何でも勝たないといけない特別な試合だった


プレッシャーもある

もちろん緊張もする

普段簡単にできるようなプレーができなくなる

もし負けたら、、、

考えたくもないような事も考えてしまう




そんな中、私達は89回目の甲子園大会の切符を獲得した

そう、優勝したのだ


スタンドからは沢山の声援、拍手が送られ、メンバーに入れなかった部員達もとても喜んでくれた

メンバーとはほとんど全員と握手をし、抱き合った

2年半の練習が走馬灯のように去来した

涙が溢れた


これでもう一度あの舞台に立てる

もう一度あのグラウンドで野球が出来る


その夜は眠れないくらい興奮状態が収まらなかった


そして2週間後の甲子園大会

春とは一味違った雰囲気で開幕した


結果は春に続いて初戦敗退


試合後のサイレンと共に私の高校野球が終わった


悔しさで泣いているメンバーもいたが、私は涙は出なかった

応援してくれていた方にあげるために砂も大量に持って帰った

悔しさや後悔、そういう感情は全くなく、充実感と納得だけが心に残った


春夏連続で甲子園に行けて、校歌は歌えなかったが、それ以上に経験できた事が大きい


統計上では、東大に行くより難しいと言われる甲子園

3年間で5回しかないチャンスの中で3回も行き、その内2回は試合にも出られた

こんな幸せな事はない


あの舞台で野球ができるのは自分の実力だけではどうにもならない部分もあるが、野球少年達は遊びを我慢し、デートを我慢し、あそこを目指すだけの価値があると間違いなく言える

幼少期の願い、目標、憧れ

自分のやりたい、行きたいという感情を大事にしてほしい

そしてそのために努力し時間を使う事はとても素晴らしい事であり、美しい姿だと私は強く思う



終わり


30歳の高校生活の思い出話


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